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広島地方裁判所 昭和25年(ワ)395号 判決

原告 山木茂

被告 株式会社中国新聞社 外三名

一、主  文

被告株式会社中国新聞社及び被告糸川成辰、被告山本朗は各自原告に対し金五万円を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用中原告と被告黒川義夫との間に生じた部分は原告の負担とし、その余はこれを十分しその一を被告その九を原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「一、被告等は原告に対し各自金百万円を支払うべし。二、被告株式会社中国新聞社は原告に対し別紙<省略>記載の謝罪広告を毎日新聞及び朝日新聞の各大阪本社並びに西部本社発行の新聞紙に三日間継続掲載し且つ中国新聞紙には五日間継続して「謝罪広告」の部分は第三面トツプ三十五行目に一号活字角ゴヂツク大、白拔、字紋入りとし「山木市議に謝罪す」の部分は初号活字「調査の結果事実相違」の部分は一号活字「本文は五号活字」「新聞社名」は二号活字を使用の上五段拔き見出しにて掲載すべし。三、訴訟費用は被告等の負担とす」との判決を求め、その請求の原因として、

被告株式会社中国新聞社は中国地方有数の日刊新聞「中国新聞」を発行する新聞社であつて、被告糸川成辰は同社の編集印刷発行人兼編集局長、被告山本朗は同社の政経部長、被告黒川義夫は同社の政経部の記者であり、原告は社会党広島市議団に所属する広島市会議員であり元広島市会副議長の要職にあつたものであるところ、被告会社は昭和二十五年九月十三日附中国新聞第三面に「真実を語る青年を拳銃で脅迫」「三度び職場を奪う」「広島市議不正事件湮滅計る」なる五段拔き見出しのもとに原告の写真入りの記事を掲載報道した。その要旨は次の通りである。

「老いた母を抱えて生活に苦斗する純真な一青年が、一広島市会議員の不正事件に対し真実の証言をしたため、同市議から三回にわたり職業を奪われた上、ピストルでバラしてやる、と脅迫されたことが広島地検の捜査で明るみに出され、相次ぐ不詳事件に平和都広島市民に衝動をあたえている」との前文に次いでその具体的内容として、

(1)  訴外山岡洋が原告の麻薬取締法違反等刑事事件に真実を知る唯一の証人として当時目撃した事実を証言したことから原告が遺恨に思うようになつた。

(2)  そのため同訴外人が市内三川町日野商店に勤務したのを原告の圧迫で追われた。

(3)  その後同訴外人が市内皆実町田村商店に勤務したが、原告の圧迫で追われた。

(4)  本年五月二十四日市の山根体育課長の斡旋で共済組合嘱託となつたが、同年六月十三日原告の政治的圧力をうけた山根課長から辞職を求められ失職した。

(5)  この間原告はたえず同訴外人をつけねらい「よけいなことをしやべるとピストルでバラすぞ」と脅迫した。

(6)  右脅迫問題で捜査の手がのびたので、原告は同訴外人に「取下の嘆願書を出せば、今後の生活の面倒をみてやるし、嘆願書を出さないと俺は承知しないぞ」と圧迫を加えたので、同訴外人は六月十九日その旨の嘆願書を提出した。

右記事の要旨のうち原告に対する刑事事件が係属中であること及び同訴外人が第一審公判期日に証人として喚問されたこと(但し真実を知る唯一の証人ではない)は事実であるが、その余の事実は全く虚偽の記載である。原告は九月十一日午後五時頃被告新聞社に編集局長である被告糸川と政経部長である被告山本を訪ね「右の如き事実は全くないのだから若し記事とするなら充分調査の上でされたい」と申し入れて注意を促し、又取材記者たる黒川被告に対しても吉井記者を通じて同趣旨の申入をした。

然るに右被告三名は、共謀の上全く事実無根の、しかも僅か一両日の間になした不充分な調査に基く右記事の掲載を敢てし、よつて一般読者に対し、原告があたかも右記事に記載された如き行為をなし、原告は暴力団の親分或は反動的政治ボスであるというような印象を与え、これがため原告は極度に名誉を毀損せられその蒙つた精神上の苦痛は計り知れざるものがある。

しかして被告糸川等三名は右の如き原告の名誉を毀損したことにつき故意又は少くとも重大な過失があるし、被告会社は被用者たる右三名がその事業の執行について第三者に与えた損害につき使用者として賠償の責に任ずべきであるから、被告等は何れも原告の蒙つた損害を賠償すべき義務があるが、原告の蒙つた精神上の苦痛に対する慰藉料の額は、前述の如き原告の政治的社会的地位及び被告会社が中国地方唯一の有力新聞社であり、かつ被告糸川等の新聞人としての地位等を綜合すれば、金百万円を相当とするから被告全員に対し各自金百万円の支払を求め、尚被告会社に対しては名誉回復の方法として請求の趣旨記載の謝罪広告を求めるため本訴に及んだ次第であると述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、原告主張の記事内容が虚偽であること、原告申入の趣旨がその主張の如きものであつたこと及び被告等共謀の事実を否認し、その余の原告主張事実を認める。右記事は被告黒川記者が真相を把握するため諸方面にわたり調査取材した結果絶対的ともいうべき確信に基き、しかも原告の立場を考慮し一方的の肯定を避け、訴外山岡洋の談話として報道を取り扱い同時に原告の全面的否定の談話も掲載し、尚訴外日野常吉、山根力男等関係者の否定的談話をも載せたのであつて、被告等は報道機関の任務の重大性に鑑みて慎重且つ公正な用意のもとにしたのである。しかも原告はさきに麻薬事件につき有罪判決をうけているから、原告が社会一般からうける名誉の程度は極めて低いにも拘らず前述の如き慎重な手段を採つたのであるし又かりに訴外山岡洋の供述中真実に合致しない点があつても、被告において叙上の如く周到な調査を遂げその結果が同訴外人の供述と符合しておつたからその供述を真実だと信じたので、かく信ずるについて過失はない。仍て被告等は原告の請求に応ずる義務はないと述べた。<立証省略>

三、理  由

被告中国新聞社がその発行の昭和二十五年九月十三日附中国新聞紙上に原告主張の如き記事を掲載したことは当事者間に争がない。原告は右記事はすべて虚偽であると主張するので、按ずるに、被告黒川義夫本人尋問の結果によると新聞記者たる同被告が本件記事を取材しそれが紙上に登載されるに至つた経緯は次の通りであることを認めることができる。

被告黒川は昭和二十五年九月七、八日頃かねて顔見知りの訴外山岡洋と広島市流川町道路上で出会い、同訴外人から本件記事と同趣旨の事実を聞知し、それが事実なら許せないことだと考え、同月十日自宅に山岡を招致し正午頃から五時過頃までかかつて再び精しく事情を聴取してそのメモをとり、早速翌十一日朝から自転車を駆つて事実の調査に着手し、先づ県庁に元広島県製薬株式会社勤務の梅本、門田を訪ね次に山田、田川に逢い正午頃本社に戻つて政経部長たる被告山本に報告し取材の分担をきめ同部長から慎重に調査するよう指示をうけ、東警察署、検察庁を訪れ横田副検事小城戸検事に面接し裁判所で原告の麻薬事件の記録を閲覧した上午後三時頃山岡の使用者日野を訪ね次に原告方の元下宿人八谷、中国薬事新聞社長泉を訪ねたが右両名は何れも不在だつた。そこで市役所で市政担当記者の増原に会い情報を交換し原告と山根の談話の結果を得て本社に戻り夕食後六時頃再び泉を訪ね八時頃八谷を訪れた。以上各関係者の面接の結果山岡の語る所が真実であるとの確信を得るに至つた。翌十二日朝、以上の調査に基き再び山岡に質問を試み、昼頃本社で原稿を書いて被告山本に提出し、活字に組まれる迄の間更に岡本、井上、津田、前田等に面接して事情を聴取し益々確信を深めた。一方同被告の報告に基いて被告糸川、山本等所謂デスクと称する幹部の間では十一、十二日の二日にわたり慎重に検討を重ねた結果十三日の紙上に掲載されるに至つた。

叙上認定の事実に証人山岡洋の証言及び成立に争ない甲第一号証により認めうる本件記事の体裁が双方談話の形式を採り原告の全面的否定の談話と日野、山根の否定的談話をも併載している事実を綜合すれば本件記事が虚偽でありそのことを知りながら被告糸川等が共謀してそれを掲載したとは認められない。却つて証人山根力男の証言によれば山岡が広島市役所共済組合を罷めるに至つた原因は原告の策謀によるものであつたことが窺われるし、証人日野常吉の証言及び原告本人の供述は何れも本件記事に掲載された同人等の談話の内容と略々同趣旨のものであつて、未だこれを以て本件記事の内容が総て虚偽であることを認める心証を起さないし、その他右認定を覆すに足る証拠はない。

しかし、本件記事の見出しに「真実語る青年を拳銃で脅迫」とあり、あたかも原告が現実に拳銃を以て直接山岡を脅迫したかの如くなつているが、原告がかような行為をしたことは右記事本文中にも存ぜず、証人山岡洋及び被告黒川義夫並びに原告本人の各供述によつても認められない。そして普通新聞記事は記者が取材した結果に基き客観的事実として報道されるのに本件記事は取材を生のままで関係者の談話として掲載し、その真偽の判断は読者に一任する態の例外的な形式をとりながら、関係者の一方である山岡の談話を大きく取り扱い、しかもこれに右のような見出しをつけ、原告主張のような前文をつけることは、読者に一見右見出しの事実があつたかの如き印象を与えることは免れ難いところであつて、一般的に見出しが読者に対して有する効果と本件記事の及ぼす社会的反響及び当時原告の刑事被告事件の公判審理中であつた事実に鑑み、その措置妥当を欠き軽卒の譏りは免れぬと共に、かような見出しによつて原告の名誉は毀損されたものと解せざるを得ない。

よつて、その責任につき考えてみると、前認定のように、本件記事の掲載についてはいわゆるデスクで極めて慎重に取扱つたものであるから反証のない限り、右のような例外的報道形式が採られたもので、その見出しもデスクで決定されたと認めるのを相当とするから、その構成員である被告糸川及び山本にその過失があるものといわねばならぬ。

右被告両名が被告会社の被用者であることは当事者間に争ないから、使用者たる被告会社は民法第七百十五条の規定に従い、被告両名は民法第七百十九条第七百九条の規定に従い連帶してその責に任ずべきであるけれども被告会社の債務と右被告両名の債務とはその性質を異にする別箇のものであるから、この両者は連帶してその責に任ずべきではなく、たゞ右三者のうちその一人が右債務を履行すれば他の者の債務は自然に消滅する点に於て関連あるにすぎないものと解するのを相当とする。

よつて損害の数額につき考えてみると、当事者間に争ない関係当事者の事情及び前記見出による名誉毀損にすぎないこと等諸般の事情を参酌しその額は五万円を相当とし、原告は慰藉料のほか謝罪広告の請求をするけれども、前記毀損の程度方法等に鑑みその必要がないものと判定する。そうすると原告の慰藉料請求は五万円の限度において正当であるからこれを認容すべきも、その余の慰藉料請求及び謝罪広告請求は失当としてこれを棄却し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条第九十三条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 三宅芳郎 浅賀栄 加藤宏)

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